エンジンマウントの ストレス考
オートバイに長年乗り、多少整備もする人にとって馴染みの無い事の一つが「 エンジンマウントのストレス 」だ。
レース等の競技の世界では自然に手当(ケア)しているが、一般市販車の場合には殆どその機会は無いから知らなくて当然だ。
しかし、この箇所のストレスを取る作業は意外と簡単で効果もそれなりにあるから試して欲しい。
実は、ワシは今まで使ってきた車両では定期的に行なって作業だが、VTR250 の作業で改めてその大切さを気付かされたので報告をしたいのじゃ。 まあ、聴いとくれ。
【 エンジンマウントって? 】
急に「エンジンマウント」と言われても、
「どこだ?」「俺のにも有るのか?」となって当然じゃから説明しよう。
「エンジンマウント」とは、エンジンをフレーム(車体/骨組み)に固定し取り付けている所の事。
あの大きなエンジンを車体に固定しなくっちゃ走れないから、キミのオートバイにもある。
じっくりと、エンジンの周りを観察すると幾つかあるのが分かるじゃろう。
車種によって違うが、最低でも 3か所以上、左右に分かれて固定している場合は 6か所以上じゃ。
そして、殆どは太いボルト(ネジ)で固定してある。
【 エンジンマウントのストレスって? 】
ストレスは知っとるじゃろう。
例えば、身近な人との間で何とも言われぬ“ギシギシ感”や“居たたまれなさ”を感じる場合があるのと同じで、オートバイの部品が取り付け組み合わさっている場所にもあるのじゃ。
特に、金属の部品同士が大きな力で組み合わさったり、大きな力が掛かりやすい所では大きな“ストレス”が生まれて残っとるのじゃ。
【 ストレスはどうして生まれる? 】
で、なぜバイクの「エンジンマウント」に“ストレス”が発生しとるか分かるかな?
大きい原因は二つじゃ。
一つは、組立作業から来るもの。
工場でオートバイを組み立てる時、エンジンとフレームを組み立てる時、普通は作業台に置いたエンジンの上からフレームを組む。 なぜかって言うと、エンジンは一番大きくて重い部品だから、重いモノを動かさない方が簡単だからじゃ。
けれど、実際の走行状態はエンジンはフレームからぶら下がっていて、エンジンにフレームを載せている状態とは違う。
それが原因で、組み立てた後で走行状態になった時から、エンジンはフレームからぶら下がる方向へと離れようとするが、ボルトでしっかりと固定しあるからストレスが生まれるのじゃ。分かるかな?
二つ目は、エンジンとフレームが別々の動きをしようとするからじゃ。
というのは、例えば走行している時には、タイヤから伝わってくる力でフレームは微妙に前後左右に変形しているのだが、エンジンは重くて頑丈だからそうはいかない。
力で変形しようとするフレームと頑として反抗するエンジンとの間・つまりエンジンマウントにはストレスが生まれるのじゃ。
そして、フレームを変形させようとする力は走行している時だけじゃあない。サイトスタンドで駐車している場合にも、エンジンマウントには余分なストレスを発生させとるのじゃ。
だから、余談じゃが、駐車させる時にはレーシングスタンドで直立させておくのがベストじゃ。
えっ? センタースタンドで直立も良いかって?
それも、あまりお勧めじゃあない。
理由は考えて欲しい。( 余談はここまで )
【 エンジンマウントストレスの除去方法 】
それは、道具さえあれば簡単じゃ。
レーシングスタンドで直立させた状態で、エンジンマウントで固定しているボルトをちょっと緩めるのじゃ。
そうして、大きなゴムハンマーやプラスチックハンマーでエンジンを左右側面を叩き、振動を与えてやるのじゃ。
そうして、エンジンが本来あるべき場所で落ち着くのを待ってから、メーカー指定の締め付けの力(トルク)で締め付けてやればOK!なのじゃ。
この時、気をつけなくちゃいけない事があるのじゃが、ボルトの締め付ける順番を間違えん事なのじゃ。
基本は、より大きな力を受け持っているボルト、より車体中心部にあるボルトから締めていくもの。
人間でいえば、より身近でより大きな影響力を与えあっている関係を優先していくのと同じじゃ。
一般に、大きな力を受け持っている所には太くて大きなボルトが配置されていて、太いボルトは指定されている力(締め付けトルク)も大きいから、サービスマニュアルで確認すれば良い。
けど、今回、VTR250の場合にも同じように処理をして、良くない結果を経験した事を白状しよう。
【 ボルト締め付け順の考察 】
VTR250の場合も、エンジンが一番大きな部品で、それにトラス状のフレームが固定されている。
で、他のオートバイとちょっと違う所は、リアのスイングアーム(リアのタイヤを固定している棒状の部品)はフレームに固定されてなくって、エンジンの後ろ側に取り付けられている“ ブラケット ”という部品(図中の4番の部品)に固定されてとる。
そして、それぞれの指定された締め付ける力(トルク)は、大きい方から 74 Nm、 54 Nm、44 Nm じゃ。
( 54 Nmのボルトは カバーの内側で見えてないが、ある)
ワシは、青い矢印の 44 Nmのは残して、赤い矢印で一番太くて指定された力の大きい 74 Nm、 次に 54 Nm、最後に 44 Nm の順で締め付け直しをしたのじゃが、これが嫌な症状を生んでしまったのじゃ。
普通の道、普通にまっすくに走っているのに、まるで空気圧を正規の 5割増しにしてしまったかの様に突き上げ感が厳しくて、コーナーでは 突き上げ感にトゲトゲ感が伴って、とても楽しく乗れるモンじゃあなくなったのじゃ。
自信と確信を持っての確認走行から自信喪失となってガレージに戻って考えに考えた。
そこで、VTR250 にとっては、エンジン後部に取り付けられた“ブラケット”が一番のキモとなる部品じゃあないのか?と。
試しに、54 Nm を最初に締め、次に 44 Nm、最後に 74 Nm へと締めて、再度の確認走行をした。
これが正解じゃった。
突き上げ感が無くなったのは当然として、ストレスを取る整備の前よりも、一層澄み切った走行感を得る事が出来たのじゃ。
と、まあ、今回は失敗もあったけど、それだけ【 エンジンマウントのストレス 】への対応でオートバイが生まれ変わる事を覚えておいて欲しい。
【 最後に 】
これはよくある話じゃが、エンジンマウントのボルトと同様に、オートバイには普段からストレスを受けているボルトはたくさんあるが、メーカー指定の締め付け力(トルク)を無視して強過ぎる力で締め付けられているのじゃ。
整備の結果として無用に強く締め付けられて、ストレスで乗り味が変わってしまったり、場合によっては安全に走行できない場合があるのを知っていて欲しいのじゃ。
そして、指定値を無視して締め付け過ぎている場合の多くはオートバイショップだったりするのじゃ。
整備する車両・オートバイ毎に、サービスマニュアルでボルト1本づつ確認しながら作業を行なっていないのだから、それは当然だ。
オートバイにいつまでも楽しく安全に乗り続けるためにも、そこら辺りの知識だけはしっかりと持って、信頼できる整備をする人を見つけるのが大切なのじゃ。
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