VTR を買った彼 (その2)
無事にVTRを港で受け取った彼は上機嫌だった。
実際に、「 無事に到着! 」の報せと お礼のメールが届いたが、その文章はお世辞以上に喜んでいる気持ちがあふれ出ていた。
後は、きちんと整備して車両本来の良さを引き出す作業から、基本的な整備の大切さ、セットアップ(セッティング)の基本的知識、そして何よりも ライディングの技を 車両(VTR)から教えてもらう事を学べば、随分と買い得な教材であり友達になれるだろう。
【 オートバイの良し悪し 】
オートバイの良しあしは、基本的には その車両の設計者(デザイナー) と テストライダー(試験・走行テスト担当)によって決まる! と考えるのは正しい。
特に、どんなに特徴のあるエンジンを搭載していても、どんなに魅力的なボディデザインや塗色であっても、テストライダー の人達の能力が高く、その人達の OKサインが出ないと販売できない程に重要視されているメーカーの製品は一般的に優れている。
というのも、設計図や仕様(スペック)には決して表われない、オートバイの素姓、マナーの良さ等は、テストライダーの方々の作品だと言っても過言ではないからだ。
彼らが長年に亘って、あらゆる状況の中で、様々な仕様のオートバイを走り込んで身体の中に蓄積させてきた “ オートバイの真髄 ”こそが、市販される オートバイに吹き込まれるべき “ 魂 ” だからだ。
【 VTR の素姓は ・・ 】
ただ、テストライダーの方々にも定年がある。
そして、その独特な “ 匠(たくみ) ” とも言える能力は、一朝一夕に身につくものではない。
その上、購入するライダーの眼が以前より肥えてないのか、メーカーのマーケッティング戦略意向が強いのか、コスト削減が厳しいのか、以前ほどに厳しいチェックをされていない車両が目立つようになっている。
そんな中、設計年次が古い VTR は、簡素な設計ながら、絶妙な車体剛性バランスに優れた、“ 魂 ” の籠った車両だ。
それも、最初のマイナーチェンジを行なった車両が一番の良さを発揮している。
残念ながら、マイナーチェンジ2回目以降の車体は、当初備えていた 「ライディングの楽しさ」 や 「スポーツ性」 を犠牲にして、とっつきやすく購入しやすいツーリング車になっている。
・・ という背景があるので、
僕は俗に 2型と言われる、当初の 設計ポリシーと
“魂” が籠った車両を中古で購入して、塗色など細部は変更したが、車体の基本的な仕様はそのままで、主に 練習用として活用している。
実際に、ノーマルのままで懐が深い車両で、乗れば乗る程に様々な感覚やライディングスキルを生で教えてくれる大切な “ お師匠様 ” だ。
だから、彼にも長年その車両を勧め続けて、今回ようやく買ってくれたのだが ・ ・ ・
【 電話の向こうから ・・ 】
そんなVTRを手に入れた彼と電話したのは、到着してから 10日後ほどの事だ。
「 小林さん! ハンドルは何センチ アップしていますか? 」
「 プラグコードは、何を入れていますか? 」
「 フロントフォークは、何ミリつき出しの変更をしていますか? 」
「 フロントブレーキのキャリパーを、○○車のに変更しますが ・・ 」
・・ と、質問の嵐が吹き荒れた。
参った! 一体 彼は 車両に吹き込まれた “魂” を磨かずに、 イメージで 車両を勝手に作り上げようとしているのか ?
参った! 何と言えば良いのか?
( 以下、次号に続く ) ・・ 「 VTR を買った彼 (その3) 」
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